お久しぶりです。管理人のジョーです。すっかり春めいてきて気温でいうともう初夏ですねぇ。
今日は自然科学を更新していきます。最近は海洋生物学を見ることが多くなり、その中でふと疑問が浮かびました。それは、『我々は膨大な魚を本当に必要としているのか』ということです。お付き合いください。

・今日の海洋資源
 海洋資源というのは多様なものを指します。天然ガスや石油もそうですが水産業という認識では漁獲に落ち着くわけです。世界で見ると漁場は多々ありますが、その中でも巨大な漁場というのは数えるほどしかありません。日本にもそんな漁場がありましたというほうが正しいでしょう。さて、そんな海洋資源ですがあくまでもこれは持続可能な資源を前提としており許容できない範囲はあってはならないはずです。しかし、今日漁獲量はおろか資源不足に陥り供給が追い付いていない状況になっています。どういうことでしょうか。

・地中海の傷跡
 地中海の海産物は古代ローマ帝国のころより流通と漁獲が盛んとなり数世紀にもわたりそれが続きました。一次捕食者や二次捕食者が重点的に乱獲され特にタラやニシンの仲間は現在でも漁獲率が極めて高い魚種です。当時の地中海はサメやウミガメといった多種多様な宝庫でしたが近辺からコルシカ島、その外部までに捕獲場所は拡がり、これが延々と続きました。また、北部ではヴァイキングが確立した漁法を用いて魚を捕っておりその勢いも当時の海に影響を与えました。それらが原因の一端となり、ヨーロッパの海に生息する魚は現在でも非常に種数が少なく変化に乏しいわけです。とはいえ、何も理由なく乱獲は起きません。これは商業価値のあるものだと認識されたのが運の尽きです。

・アンチョベータが語る巨大市場の在り方
 ペルー沿岸の漁場は世界の漁獲量の10%を誇ると言われる程巨大なものです。そこで水揚げされる魚はアンチョベータといわれるカタクチイワシ科の魚です。これは最大でも20cmに満たない小魚で主に植物プランクトンを摂餌しています。皆さんも高校の地理で聞いたことがあるんじゃないでしょうか?エルニーニョ現象とアンチョベータの関係性を。インドネシア海域で停滞していた暖水帯が東から吹く風の弱まりにより東側つまり南アメリカ大陸の方向へ拡がりそこの冷水を含むTTL(水温躍層)が変化して暖かくなることを指します。これにより、富栄養の冷水の湧昇が少なくなり、それを餌としていたプランクトン類が死滅し、二次三次と捕食者に影響を与えます。エルニーニョは毎年起こるものではないのですがここ数十年ではその生じるスピードが速まっています。
 さて、そのアンチョベータですがこれほどまでに漁獲されているのならばさぞ世界中の人々が消費しているのだと思われるでしょう。しかし、このうち我々の口に入るのは10%未満に留まります。残りの90%はどうなるかというと、家畜用飼料や魚油の燃料となり工業、畜産業に回されています。元々アンチョベータは脂肪分が多い魚でそのまま食材として扱うには選択肢が少ない魚ですが、このような産業に標的にされることで世界屈指の漁獲量となりそれが転嫁して巨大漁場となったわけです。これは迅速にアンチョベータに変わる可能性、或いは供給量を少なくして産業を収縮するなどの措置を取らないとここから海洋生態系は瓦解すると言っても過言ではありません。とはいえ、ペルーはこの漁業が国の最大資本である以上中々受け入れがたい部分はあるでしょうが。

・終わりに
 ここまで、二つの例から魚を必要とする理由と今後の課題について見てきました。歴史的に見ても人類は有史以前より狩猟をして、漁業も行っていました。しかし、それは簡易な木船や移動手段の限定などによりあくまでもその地域の人々が生きる為に必要分のみの漁獲で良かったわけです。時代が進み、それは商業的価値になることを知り漁船の改良、遠洋漁業の発達、物流の改新、冷凍技術の開発、底引き網などによる過度な乱獲といった様々な要因が海洋生態系を著しく弱らせたと私は感じています。そこまでして必要なものなのか、何故これ程巨大市場となっても今後の危機感に疎いのか。それを今改めて問っていきたいと思います。もし、この記事を見て馬鹿馬鹿しいと思う方がいれば近くの人が出入りする岩礁にでも行ってみてください。本来ならば岩の頂上や表面には褐藻類や地衣類がいるはずですがそれがなく裸同然だと思います。岩を捲り、砂を踏みしめ、そこにいる生物相はこれまでとは変化しているはずです。身近なもの程移り変わりに目が行きにくいものです。ではこの辺で。